リングに住んでいた魔物
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昨日は後楽園ホールへ。竹中良選手(三迫)の応援に行ってきました。竹中選手は6年前のプロデビューから毎試合欠かさず応援してきたボクサーです。この日遂にメインイベンターとして、タイトル挑戦の檜舞台に立ったのです。同級6位の竹中良が挑むのは王者・天笠尚選手(山上)。日本タイトルを経て東洋太平洋の王座はここまで上位ランカーを相手に2戦連続KO防衛中。現在4つの団体全てで世界ランク入りしている難敵です。
掛け値なしに物凄い試合でした。
実はこれを書いている今もジワジワと悔しさが込み上げてきます。試合は12RTKOで敗れました。それも王者にとっては劇的な逆転KO、敗者側にとっては現実を受け入れがたい衝撃の結末でした。
試合は序盤戦から気迫十分の竹中が積極的に仕掛けました。2Rには王者のパンチで早くも左目をカットしたものの、4R終了時の途中採点では2人のジャッジが2ポイント差を付けて竹中がリードです。
8R終了時、2度目の途中採点では3者ともに2ポイント差で挑戦者・竹中に軍配が上がっていました。そして、いよいよ終盤へ。しかし、自身の劣勢を告げられても王者・天笠の表情は変わりません。不気味です。2ポイントは挑戦者にとって決してセーフティリードではありません。
やはり、竹中は前に出ます。おそらく逃げ切るという文字は頭には浮かんでいないのでしょう。9R以降は竹中にとって未知のラウンドでした。素人目に見ても明らかに疲れが見え始めていました。それでも10Rには、ポーカーフェイスの王者をぐらつかせる決定的な場面を作り、竹中が大攻勢をかけます。
王者有利という戦前の下馬評が覆る! 竹中がチャンピオンベルトを巻く、そんな雰囲気が刻一刻とホールを包み始めていました。
しかし11R。このラウンドも竹中が積極的に出ますが終盤に天笠が攻勢をかけ、竹中は足を使ったディフェンスで何とか凌ぎ切りました。結果論ですが、この11Rに最終ラウンドの伏線があったのではないかと思います。私見ですが、ガードが若干下がってきている印象を持ったからです。それと足を使いすぎてしまったのではないかと。
運命の最終12R。竹中サイドの応援団からは「あと1ラウンド!」といった声援が数多く飛びました。しかし、リングに魔物は住んでいました…。
もう後がない王者・天笠に対し真っ向から打ち合った竹中。両者の魂が極限でぶつかった刹那、王者の左フックがカウンターで炸裂しました。竹中痛恨のダウン。立ち上がったものの、天笠の猛攻は止まりません。2度目のダウンを喫したところでレフェリーは試合をストップしました。
○天笠尚 12RTKO 1分15秒 ●竹中良
「戦うイメージはできています。絶対面白い試合になりますから」。竹中選手は、試合の2週間前にそう私に話してくれました。竹中は有言実行の漢でした。それは分かりきっていたことです。でもこんな素晴らしい戦いをしながら…、勝利の女神は竹中に微笑んでくれませんでした。勝負の世界はあまりにも残酷です。
試合後、印象的なシーンがありました。竹中が赤コーナーに挨拶に向かうと、チャンピオン側の応援団、客席から惜しみない拍手が贈られたのです。
3度目の防衛を果たした天笠選手はこれで28勝(19KO)4敗2分。竹中選手11勝(6KO)3敗1分となりました。
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竹中を応援する身として、一夜明けたとはいえこうして敗れた試合を長々と記すことには正直躊躇しました。しかし、2015年10月15日後楽園ホールで天笠選手と竹中選手の名勝負があったことをボクシングを知らない方にもぜひ知ってもらいたい、それが偽らざる気持ちです。28歳と29歳の同世代による激闘は、観る者の魂を揺さぶりました。王者の矜持を見せた天笠選手にも拍手を送りたいと思います。
竹中良選手に今掛ける言葉は見つかりません。竹中選手、今はゆっくり休んでください。そして真の勝者になる日がくることを楽しみに待っています。